てこの原理の見つけ方

【システム思考入門】因果ループ図の基本と、てこの原理を特定するステップ

Tags: システム思考, 因果ループ図, てこの原理, プロジェクトマネジメント, 問題解決, システム分析

プロジェクトの現場では、様々な問題が発生します。発生した問題に対し、対症療法的な対応を繰り返してしまうことで、根本的な解決に至らず、同じ問題が再発してしまうという経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。システム分析のアプローチは、このような状況から脱却し、問題の根本的な原因を見つけ、効果的な一手を打つための強力な手段となります。

この記事では、システム分析の基礎となるシステム思考の基本的なツールの一つ、「因果ループ図」に焦点を当てます。因果ループ図がどのように問題の構造を明らかにし、少ない労力で大きな成果を生む「てこの原理」(レバレッジポイント)を特定するのに役立つのかを、具体的なステップと共にご紹介します。

システム思考と「てこの原理」

システム思考とは、物事を単一の原因と結果の連鎖として捉えるのではなく、複数の要素が相互に影響し合い、時間と共に変化する「システム」として理解しようとする考え方です。この考え方に基づくと、問題はシステム全体の構造から生じていると見なされます。

「てこの原理」とは、システムの中で、小さな介入や変化がシステム全体に大きな、時には予想外の変化をもたらすことができるポイントを指します。システム思考を用いてシステムの構造を深く理解することで、この「てこの原理」を見つけ出し、表面的な対処ではなく、根本的な改善を図ることが可能になります。

因果ループ図(Causal Loop Diagram: CLD)とは

因果ループ図は、システム内の様々な要素(変数)間の因果関係と、それらが形成するフィードバックループを視覚的に表現するためのツールです。これにより、問題を引き起こしているシステムの構造を理解することができます。

因果ループ図は、主に以下の要素で構成されます。

因果ループ図を作成することで、システムがなぜ現状のように振る舞うのか、その根本的な構造を理解するための手がかりを得られます。

因果ループ図の作成ステップ

因果ループ図を作成するプロセスは、必ずしも一度で完璧になるものではありません。試行錯誤を繰り返しながら、システムの理解を深めていくことが重要です。一般的な作成ステップは以下の通りです。

ステップ1: 問題(または対象システム)の定義と主要な変数の特定

ステップ2: 変数間の因果関係を描く

ステップ3: フィードバックループを見つける

ステップ4: 図をレビューし、システムの構造を理解する

因果ループ図から「てこの原理」を特定する

因果ループ図を用いてシステムの構造が理解できたら、次はその構造の中で「てこの原理」となる介入点を探します。「てこの原理」は、必ずしも最も目立つ問題点や、直接的な原因だと思われている場所にあるわけではありません。むしろ、システムの構造、特にフィードバックループの性質や、変数間の遅延、変数の「感度」(少しの変化でシステム全体に大きな影響を与える変数)などを考慮して見つける必要があります。

因果ループ図から「てこの原理」を特定するための視点をいくつかご紹介します。

例えば、「納期遅延が常態化している」という問題に対する簡単な因果ループ図を考えます。

納期遅延 (+) --> 作業時間増加 (-) --> 納期遅延解消
                      ^                   |
                      |                   | (B)
                      |                   |
                 疲労蓄積 (+) -----------> 品質低下 (+) --> バグ増加 (-) --> 作業時間増加

この図は簡略化されていますが、「納期遅延→作業時間増加→納期遅延解消」という均衡ループ(B)と、「作業時間増加→疲労蓄積→品質低下→バグ増加→作業時間増加」という強化ループ(R、矢印の極性の数を数えるとプラスの数が偶数になるため)が組み合わさっている構造が見えます。

ここで「てこの原理」を考えると、単に作業時間を増やす(均衡ループ内のアクション)だけでは、強化ループ(R)が働き、疲労や品質低下、バグ増加を招き、結果としてさらに作業時間が必要になる悪循環に陥る可能性があります。この場合、「てこの原理」は、均衡ループを機能させつつ、強化ループを弱める点にあるかもしれません。例えば、

このように、因果ループ図を通じて問題の構造を理解することで、単に目の前の遅延に反応するのではなく、悪循環を生み出している構造そのものに働きかけるための「てこの原理」が見えてきます。

まとめ

システム思考と因果ループ図は、プロジェクトにおいて表面的な問題解決に終始することなく、根本的な構造に働きかけるための強力なフレームワークです。この記事でご紹介した因果ループ図の作成ステップと、「てこの原理」を特定するための視点を参考に、ぜひご自身のプロジェクト課題に応用してみてください。

最初は難しく感じるかもしれませんが、小さなシステムから因果ループ図を作成する練習を重ねることで、システムを構造的に理解する力が養われます。このスキルは、複雑な状況下でも冷静に状況を分析し、最も効果的な一手を打つための羅針盤となるはずです。

次の記事では、システム思考におけるもう一つの重要なツールである「ストック&フロー図」について解説する予定です。システム内の蓄積と流れを理解することで、因果ループ図だけでは見えにくいダイナミクスを捉えることができます。