【システム分析の第一歩】てこの原理を見つけるための効果的な情報収集と整理術
はじめに
プロジェクトで発生する様々な問題に対し、表面的な対処療法を繰り返すのではなく、根本原因に働きかけることのできる効果的な介入点、いわゆる「てこの原理」を見つけたいと考えている方は多いでしょう。システム分析は、この「てこの原理」を特定するための強力なアプローチです。
しかし、システム分析を始めるにあたって、「一体、どんな情報を集めればいいのか？」「集めた情報をどう整理すれば構造が見えてくるのか？」と戸惑うこともあるかもしれません。システム分析は、闇雲に情報を集めるだけでは効果を発揮しません。適切な情報を、適切な方法で収集し、構造が理解できるように整理することが、分析の成否を大きく左右します。
この記事では、システム分析の最初のステップとして、てこの原理特定に不可欠な情報の特定、収集、そして整理の方法を具体的に解説します。
システム分析と情報収集・整理の重要性
システム分析は、対象とするシステム（例えばプロジェクトチーム、業務プロセスなど）を構成要素間の相互作用のネットワークとして捉え、問題の構造や動態を理解することを目的とします。この構造や動態を明らかにするためには、システム内で実際に何が起きているのか、人々がどのように考え、行動しているのかといった、生きた情報が不可欠です。
不十分な情報や、偏った情報に基づいた分析は、誤った問題構造を導き出し、結果として効果のない、あるいは予期せぬ副作用を招くてこの原理を特定してしまうリスクがあります。したがって、システム分析の第一歩は、質の高い情報を体系的に収集し、分析に適した形に整理することなのです。
てこの原理特定に向けた情報収集のステップ
てこの原理を見つけるための情報収集は、単なるデータ収集とは異なります。システム全体の構造やフィードバックループ（結果が原因に影響を及ぼし、さらなる結果を生む循環）、そして関係者のメンタルモデル（人々がシステムについて持っている考え方や信念）を理解することを目的とします。
具体的なステップを見ていきましょう。
ステップ1: 分析対象の「システム」と「問題」を明確にする
まず、今回のシステム分析で何を対象とするのか、そして具体的にどのような問題を解決したいのかを明確に定義します。例えば、「プロジェクトの納期遅延」という問題であれば、そのシステムは「当該プロジェクトに関連するチーム、プロセス、ツール、意思決定メカニズム」などとなるでしょう。
この段階で、どのような情報が問題に関連しているかを大まかに検討します。 * 問題の具体的な事象や傾向はどうなっているか？（例: いつから、どのくらいの頻度で遅延が発生しているか） * 問題に関わる主要な関係者は誰か？（例: 開発チーム、ステークホルダー、マネージャー） * 問題が発生している主な場所やプロセスはどこか？（例: 仕様決定、開発、テスト）
ステップ2: システム理解のために必要な情報の種類を特定する
システム分析に必要な情報は多岐にわたります。てこの原理を見つけるためには、表面的なデータだけでなく、問題の背景にある構造や人々の認識に迫る情報が必要です。
収集すべき情報の種類としては、以下のようなものが挙げられます。
- 定量的データ: 問題の規模や傾向を示す数値データ。（例: タスク消化率、バグ発生件数、会議時間、リソース稼働率）
- 定性情報: 人々の意見、経験、感情、認識。（例: 関係者へのインタビュー、アンケートの自由記述、日報、議事録）
- 構造に関する情報: システムを構成する要素（人、モノ、情報、ルールなど）とその間の関係性。（例: 組織図、業務フロー図、データフロー、コミュニケーション経路）
- 履歴情報: 問題の発生経緯や過去の取り組み。（例: 過去のプロジェクト記録、インシデント報告書、決定事項）
- メンタルモデルに関する情報: 関係者がシステムや問題について抱いている信念、仮説、期待。（例: 「この問題の原因はXだ」「Yすれば解決するはずだ」といった発言）
これらの情報を特定する際は、「なぜその問題が起きているのか？」「何がこの状況を生み出しているのか？」という問いを常に意識することが重要です。
ステップ3: 効果的な情報収集方法を選択し実行する
必要な情報が特定できたら、次にどのように情報を集めるかを計画し実行します。プロジェクト環境で活用しやすい主な情報収集方法をいくつかご紹介します。
- インタビュー: 関係者から直接話を聞く最も有効な方法の一つです。事実だけでなく、その人の解釈やメンタルモデルを引き出すことができます。事前に仮説を立て、構造に関する問い（例: 「〇〇が発生すると、次に何が起きますか？」「△△の判断は、誰に影響を与えますか？」）を用意しておくと効果的です。
- ドキュメントレビュー: 既存の議事録、仕様書、報告書、データ、日報などを確認します。過去の経緯や公式な情報を体系的に得られます。数値データだけでなく、文書の中に隠された非公式なやり取りや判断の根拠もヒントになります。
- アンケート: 多数の関係者から効率的に情報を集めるのに適しています。定量的な選択肢だけでなく、自由記述欄を設けることで定性的な意見も収集できます。
- 観察: 実際の業務プロセスや会議の様子を観察することで、ドキュメントやインタビューだけでは見えない非公式なルールや行動パターンを発見できます。
- ワークショップ: 関係者を集め、特定のテーマについて話し合うことで、多様な視点や共通認識を得られます。システム分析の初期段階で関係者間の認識のずれを把握するのに役立ちます。
これらの方法を単独で使うのではなく、組み合わせて利用することで、多角的な情報を得ることができます。
ステップ4: 収集した情報を整理し、構造を見える化する準備をする
集めた情報は、そのままでは断片的でシステム全体の構造を理解するのは困難です。情報を整理し、分析に適した形に加工する必要があります。
- 情報の分類: 収集した情報を、関係者別、時系列、テーマ別、あるいは事実/意見などに分類します。
- キーポイントの抽出: 問題構造に関連する重要な発言、データポイント、出来事などを抽出します。
- 時系列の整理: 問題の発生や変化に関連する主要な出来事を時系列で並べることで、原因と結果の連鎖が見えてくることがあります。タイムライン図を作成するのも有効です。
- 関係性の整理: どの要素がどの要素に影響を与えているか、あるいは関連しているかといった関係性をメモするなどして整理します。これにより、後の因果ループ図作成などに繋げやすくなります。
- 図解化の検討: 関係者マップ（誰が問題に関わっているか、その影響力は？）、プロセスフロー図（実際の業務の流れは？）、概念マップ（人々の頭の中の考え方は？）など、情報の性質に応じて様々な図解化手法の活用を検討します。
KJ法（文化人類学者の川喜田二郎氏が考案した、情報を収集・整理・分析するための手法）やマインドマップなども、収集した情報を整理し、新たな視点や構造を発見するのに役立ちます。
実践的なヒントと注意点
- バイアスに注意する: 情報を提供する人の立場や視点によって、情報は偏ることがあります。複数の情報源から情報を得る、批判的な視点を持つといった工夫が必要です。
- 「なぜ？」を繰り返す: 収集した情報に対して「なぜそうなるのか？」「なぜその結果が生まれたのか？」と問い続けることで、表面的な事象の奥にある構造や原因に迫ることができます。
- 関係者の協力を得る: システム分析は関係者の協力なしには進められません。分析の目的や期待される効果を丁寧に説明し、協力を仰ぐ姿勢が重要です。
- 情報を共有する: 集めた情報や中間的な分析結果を関係者と共有し、フィードバックを得ることで、情報の正確性を高め、関係者の納得感を得やすくなります。
まとめ
システム分析における情報収集と整理は、てこの原理を見つけるための土台となる極めて重要なステップです。この段階で手を抜くと、その後の分析の質が低下し、問題の本質を見誤る可能性が高まります。
この記事でご紹介したステップとヒントが、あなたが担当するプロジェクトの問題解決において、効果的な情報収集と整理を行い、システム分析を通じて真に効果的な「てこの原理」を見つけるための一助となれば幸いです。
次のステップでは、収集・整理した情報を基に、因果ループ図などのシステム思考ツールを使って問題構造を可視化し、さらに分析を深めていきます。