てこの原理の見つけ方

【システム分析 実践】システム構造図から「てこの原理」候補を見つけるための特徴と判断基準

Tags: システム分析, てこの原理, システム思考, 問題解決, 構造図

はじめに

プロジェクトで問題が発生した際、システム分析を用いてその構造を理解しようと試みることは非常に有効です。因果ループ図などで問題の構造が可視化できたとき、次に多くのプロジェクトマネージャーが直面するのは、「この構造図の中で、どこに働きかけるのが最も効果的なのだろうか?」という問いです。表面的な症状ではなく、システム全体の動きに根本的に影響を与える「てこの原理(Leverage Points)」は、構造図の中に隠されています。

しかし、システム分析やシステム思考に慣れていない場合、構造図を見ても、どこがてこの原理になりうるのか、その特徴や判断基準が分かりにくいことがあります。

この記事では、システム分析によって作成された構造図(主に因果ループ図を想定)から、てこの原理候補を見つけるための一般的な特徴と、具体的な判断の視点について解説します。構造図を単なる現状分析のツールとしてだけでなく、効果的な介入点を発見するための羅針盤として活用するための一助となれば幸いです。

システム構造図が示すもの

システム構造図、特に因果ループ図は、システム内の要素(変数)とそれらの間の因果関係、そしてそれらが作り出すフィードバックループ(強化型ループや抑制型ループ)を視覚的に表現したものです。この図は、なぜ問題が継続したり、特定のパターンが繰り返されたりするのか、その構造的な理由を理解するのに役立ちます。

てこの原理とは、システム全体に比較的小さな力で大きな変化をもたらすことができる介入点のことです。システム構造図は、このてこの原理がどこに存在する可能性が高いかを示唆してくれます。

システム構造図上で「てこの原理」になりやすい場所の特徴

システム思考の専門家であるドネラ・メドウズ氏は、システムに介入できる「てこの原理」には様々なレベルがあることを提唱しています。システム構造図の観点から、特に初期の分析で見つけやすい、てこの原理になりうる場所の一般的な特徴をいくつかご紹介します。

1. フィードバックループに関わる要素やリンク

システム構造の核となるのはフィードバックループです。 * 強化型ループ(自己増幅ループ): 問題を悪化させる、あるいは好循環を加速させる傾向があります。このループを「弱める(問題悪化ループの場合)」または「強める(好循環ループの場合)」ような介入点は、大きな影響力を持つ可能性があります。ループ内の特定の要素やリンクに働きかけることで、ループ全体のダイナミクスを変えることができます。 * 抑制型ループ(目標指向型ループ): システムを安定させたり、目標に引き戻したりする傾向があります。このループの「目標設定」や「遅延」、「応答速度」に関わる要素に働きかけることで、システムの挙動を大きく変える可能性があります。

てこの原理は、しばしば既存のフィードバックループの働きを変化させたり、新たなループを導入したりする場所にあります。

2. 遅延(タイムラグ)が存在する箇所

システムにおける遅延(ある行動の結果が出るまでの時間差)は、システムの挙動を不安定にしたり、意図しない結果を引き起こしたりする主要な要因の一つです。構造図上で遅延が示されている箇所や、複数の要素を経て結果が現れるまでに時間差がある箇所に注目します。この遅延を適切に管理したり、短縮または意図的に長くしたりする介入は、システム全体の応答性や安定性に大きな影響を与える可能性があります。

3. ボトルネックとなっている要素

プロセスや情報の流れにおけるボトルネックは、システム全体のパフォーマンスを制限します。構造図の中で、多くの因果パスが集まる、あるいは流れが滞留しやすい要素は、ボトルネックである可能性があります。このボトルネックを解消または管理することは、システム全体の効率やアウトプットを劇的に改善するてこになりえます。

4. 複数の要素に影響を与える(または受ける)ハブ的な要素

構造図の中心付近に位置し、多くの他の要素とリンクで繋がっている要素は、システム内で重要な役割を果たしていることが多いです。このようなハブ的な要素に働きかけると、その影響が広くシステム全体に波及しやすいため、てこの原理候補となる可能性があります。

5. システムの目標やルールに関わる要素

システムの挙動は、その目的や暗黙・明示的なルールによって大きく左右されます。構造図に直接描かれていない場合もありますが、システムを動かす「思考様式」や「パラダイム」(最上位のてこ)や、それを具体化した「システム全体の目標」「報酬・罰則の構造」「ルール変更」などは、強力なてこの原理となりえます。構造図は、これらの上位の要素がシステムにどのように影響しているかを理解する手助けとなります。

構造図から「てこの原理」候補を判断する視点

単に特徴に合致する場所を見つけるだけでなく、それが本当に「てこ」として機能するかどうかを判断するための視点が必要です。

構造図から「てこの原理」候補を特定する実践手順

構造図を作成した後のてこの原理候補特定は、以下のステップで進めることができます。

  1. システム構造図を確認・共有: 作成した構造図(例: 因果ループ図)をチームや関係者と共有し、システムがどのように機能しているか共通理解を図ります。
  2. てこの原理になりうる特徴を持つ箇所を探す: 上記で解説したような「フィードバックループに関わる場所」「遅延」「ボトルネック」「ハブ的な要素」などを意識しながら、構造図全体を注意深く観察します。特に、問題を引き起こしている強化型ループや、目標達成を阻害している抑制型ループ、あるいはそれらの間の相互作用に注目します。
  3. 候補をリストアップし、判断基準で評価: 特徴に合致する要素やリンクをてこの原理の「候補」としてリストアップします。それぞれの候補について、「影響力の大きさ」「波及効果」「構造的な位置づけ」といった判断基準を用いて、本当にシステム全体に大きな変化をもたらす可能性が高いか検討します。
  4. 潜在的な副作用を検討: 各候補に対する介入が、システムにどのような影響を与えるか、特に意図しない副作用がないかブレインストーミングを行います。新たな因果ループが生まれないか、既存の好ましいループを阻害しないかなどを検討します。
  5. 候補を絞り込み、次のアクションへ: 評価と副作用の検討を経て、最も有望なてこの原理候補をいくつか絞り込みます。これらの候補に対して、さらに詳細な実行計画を立てたり、小規模な実験(プロトタイピング)を行ったりして、その効果とリスクを検証する段階に進みます。

まとめ

システム分析によって描き出された構造図は、単に問題の現状を示すだけでなく、根本的な解決策、「てこの原理」を見つけるための強力な手がかりを提供します。フィードバックループ、遅延、ボトルネック、ハブ的な要素といった特徴を持つ場所に注目し、影響力、波及効果、構造的な位置づけといった視点から判断することで、構造図の中に隠されたてこの原理候補を効率的に見つけ出すことができます。

構造図を用いたてこの原理特定は、一度で完璧に行えるものではありません。分析と介入、そしてその結果を再び構造図に反映させるという iterative(反復的)なプロセスを通じて、システムへの理解を深め、より効果的な介入点を見つけ出す精度を高めていくことが重要です。ぜひ、日々のプロジェクトマネジメントにシステム構造図を用いたてこの原理探しを取り入れてみてください。