【システム分析実践】プロジェクトの「なぜか続く問題」に終止符を打つ:構造からてこの原理を見つける手順
プロジェクトの「なぜか続く問題」にシステム分析で終止符を打つ
プロジェクトを進める中で、「一度解決したはずの問題が再発する」「別の場所で似たような問題が起こる」「どんな対策を打っても状況が好転しない」といった経験はないでしょうか。これらの「なぜか続く問題」は、表面的な原因に対処しているだけでは根本的な解決に至らないことがほとんどです。
こうした問題の背後には、複数の要因が複雑に絡み合い、相互に影響し合っている「システム構造」が潜んでいます。この構造を理解せずに対処療法を繰り返しても、問題は形を変えて現れ続けるだけです。
システム分析の目的の一つは、このような複雑なシステム構造を読み解き、小さな介入でシステム全体に大きな変化をもたらすことができる「てこの原理(Leveraging Point)」を特定することにあります。てこの原理は、文字通り小さな力で重いものを動かす「てこ」のように、システムの中で最も効果的な介入点です。
この記事では、プロジェクトで直面する「なぜか続く問題」に終止符を打つため、システム構造を理解し、てこの原理を見つけるための具体的な手順を解説します。システム思考やシステム分析にこれから取り組む方にも分かりやすいように、ステップバイステップで進めていきます。
なぜプロジェクトの問題は複雑化し、「なぜか続く」のか?
プロジェクトにおける問題の多くは、単一の原因によって発生するのではなく、複数の要素(人、プロセス、ツール、情報、文化など)が相互に作用し合う中で生まれます。そして、その相互作用が生み出す「フィードバックループ」が、問題を悪化させたり、解消を妨げたりする構造を形成します。
- フィードバックループ: システム内のある要素の変化が、別の要素に影響を与え、最終的に最初の要素に跳ね返ってくる循環構造のことです。例えば、「仕様変更が多い」→「開発が遅延する」→「納期に間に合わせるためにテストを削減する」→「品質問題が増加する」→「品質問題の対応に追われ、開発がさらに遅れる」といった悪循環は、複数のフィードバックループが絡み合って形成されます。
このような構造が存在すると、問題の一部分だけを解決しようとしても、構造全体が元の状態に戻そうとする力が働くため、効果が持続しない、あるいは別の場所で問題が発生するといった現象が起こります。これが、「なぜか続く問題」の正体であり、構造的な問題と呼ばれるものです。
システム構造からてこの原理を見つけるための3つのステップ
プロジェクトの「なぜか続く問題」を根本的に解決するためには、その背後にあるシステム構造を明らかにし、てこの原理を見つける必要があります。ここでは、そのための具体的な3つのステップをご紹介します。
ステップ1: 問題に関わる「システム」の範囲と構成要素を特定する
てこの原理を探す最初のステップは、分析対象とする「システム」の範囲を明確にし、それを構成する主要な要素を特定することです。プロジェクト全体を一度に分析しようとすると複雑すぎるため、まずは解決したい具体的な問題に焦点を当て、その問題に直接的・間接的に関連する範囲を定義します。
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システム範囲の定義:
- 解決したい問題(例:特定の機能の開発遅延が常態化している)は何か?
- その問題はどこまで影響を及ぼしているか?(例:開発チーム内、関連する他チーム、顧客、経営層)
- 分析の対象期間はいつからいつまでにするか?
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構成要素の特定:
- 定義したシステム範囲内に存在する、問題に関わる「もの」や「こと」を洗い出します。
- 人(開発者、テスター、PM、顧客など)
- プロセス(開発プロセス、レビュープロセス、意思決定プロセスなど)
- 情報(仕様書、課題管理リスト、進捗報告書など)
- ツール・技術(開発ツール、管理ツール、使用技術など)
- 成果物(コード、ドキュメントなど)
- 文化・ルール(チームの規範、組織のポリシーなど)
- これらをリストアップし、問題との関連性を考えながら整理します。
ステップ2: 構成要素間の「関係性」と「相互作用」を可視化する
次に、ステップ1で特定した構成要素が互いにどのように影響し合っているかを明らかにします。このステップでは、要素間の「関係性」と、その関係性が生み出す「相互作用」を可視化することが重要です。因果ループ図のような専門的なツールを使わなくても、まずはシンプルに矢印を使って要素間の影響を示してみることから始められます。
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関係性の特定:
- 「Aが増えるとBも増えるか減るか」「Cの変化はDにどう影響するか」といった問いを立てながら、要素間の因果関係を見つけ出します。
- 例:「仕様変更の頻度」が増える → 「開発工数」が増える
- 例:「開発工数」が増える → 「開発期間」が延びる
- 例:「テスト期間」が短くなる → 「検出される不具合件数」が減る(ただし潜在的な不具合は増える)
- 関係性の方向性(増加させるか、減少させるか)も考慮します。
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相互作用の可視化:
- 特定した要素と関係性を図に描いて、システム構造を視覚的に把握します。要素をノードとして、関係性を矢印で結びます。矢印のそばに「+」(増加させる)や「−」(減少させる)といった記号を添えると分かりやすくなります。
- 特に注目すべきは、要素間の影響が巡り巡って元の要素に戻ってくる「フィードバックループ」です。これが「なぜか続く問題」を生み出す構造の核となることが多いからです。
- ループが問題を悪化させる方向(「もっと頑張る」→「疲弊する」→「効率が下がる」→「もっと頑張る」など)に働いているか、問題を安定させる方向(「在庫が減る」→「注文を増やす」→「在庫が増える」→「注文を減らす」など)に働いているかを見極めます。
ステ3: 構造から「影響力の大きいポイント」=てこの原理候補を見つける
システム構造が可視化できたら、その図をじっくりと観察し、どこに介入すればシステム全体に最も大きな変化をもたらすことができるかを探します。これが「てこの原理」候補の特定です。てこの原理は、必ずしも問題の「直接的な原因」と見える場所にあるとは限りません。システム構造全体を見渡すことが重要です。
てこの原理を見つけるための視点や問いかけの例:
- フィードバックループへの介入: 問題を悪化させているフィードバックループ(悪循環)を断ち切る、あるいはそのループの速度を遅くする、逆に問題を解消・安定させる良いフィードバックループ(好循環)を強化するポイントはどこか?
- 情報の流れの変更: 重要な情報が滞留している、あるいは誤って伝わっている場所はないか?情報の流れを変えることで、システムの意思決定や行動が変わるポイントはどこか?
- ルールの変更: システムを制御しているルールやパラメータ(例:リソース配分の基準、評価制度、承認プロセス)を変更することで、構成要素の行動パターンが変わるポイントはどこか?
- システムの目的や意識の変更: システム全体の目的や、関係者の認識・価値観を変えることで、行動が根本的に変化するポイントはどこか?(これは最も影響力が大きいが、実現も難しいことが多いです。)
- ボトルネックの解消: システム全体の流れを滞らせているボトルネックはどこか?そこを改善することで、全体効率が大きく向上しないか?
可視化した構造図上で、これらの視点から「もしここに手を加えたら、他の多くの要素やループに波及効果が生まれるのではないか?」と考えられるポイントを探します。複数の候補が見つかることもありますが、それらは後のステップで評価・比較していくことになります。
ステップ実践のポイント
- 完璧を目指さない: 最初から完璧なシステム構造図を描こうとせず、まずは分かるところから要素と関係性を書き出してみてください。分析を進める中で理解が深まり、修正・追加していくのが自然なプロセスです。
- チームで取り組む: システム構造の理解は、一人で行うよりもチームや関係者と協力して行う方が効果的です。多様な視点を取り入れることで、より正確で包括的な構造図を描くことができます。付箋紙やホワイトボード、オンラインツールなどを活用して、一緒に要素や関係性を洗い出し、図を作成してみてください。
- 観察と対話を重視: 分析の根拠となるのは、実際のプロジェクトでの観察や、関係者からのヒアリング、過去データの分析などです。「なぜこうなっているのだろう?」「この変化は他の何に影響しているのだろう?」といった問いを立て、関係者と対話しながら構造を明らかにしていきます。
まとめ
プロジェクトで「なぜか続く問題」に直面したとき、それは表面的な対処だけでは解決できない、システム構造に起因する課題かもしれません。システム分析を通じて問題の構造を理解し、てこの原理を特定することは、対症療法ではなく根本的な問題解決への道を開きます。
今回ご紹介した3つのステップ(システム範囲と要素の特定、関係性の可視化、てこの原理候補の特定)は、システム構造から問題の本質に迫り、最も効果的な介入点を見つけるための基本的なアプローチです。これらのステップを実践することで、プロジェクトの課題に対して、より体系的で効果的なアプローチが可能となるでしょう。
てこの原理の特定は問題解決のスタート地点です。見つかったてこの原理候補をさらに深掘りし、実行可能なアクションプランへと落とし込んでいくプロセスについては、また別の記事で詳しく解説していきます。まずは、身近な「なぜか続く問題」を選んで、この3つのステップを試してみてはいかがでしょうか。